●環境班の取り組み
自動車の排ガス規制が年々厳格化している現状において,酸性雨や光化学スモッグなどの原因となる窒素酸化物(NOx)を多く排出するディーゼルエンジンでは,排ガス後処理装置のさらなる性能向上が必須です.ディーゼルエンジンの排ガス後処理装置として一般的に搭載されている尿素SCR(Selective Catalytic Reduction)システムは,排気管内に尿素水(Urea Water Solution)を噴霧し,アンモニアに気化したものがNOxと化学反応を起こすことで,無害な窒素と水に還元する仕組みとなっています.しかし,アイドリング時などの排気管内温度が低い状態では,尿素水がアンモニアに気化しきらず発生した中間生成物が固化し,管内に堆積することで目詰まりを起こし,NOxの浄化性能が低下することが課題です.そこで,環境班では上述した課題解決を目的とした研究を行っています.

*Xu, L., et al., “Laboratory and Engine Study of Urea-Related Deposits in Diesel Urea-SCR After-Treatment Systems”, SAE Technical Paper 2007-01-1582, 2007.
主な研究内容
管内における尿素水の噴流可視化
尿素SCRシステムのNOx浄化性能を向上させるためには,噴霧した尿素水およびアンモニアが管内で均一に分散することによる尿素水→アンモニアへの気化の促進が重要であり,噴霧した尿素水の流れを把握することが必要です.そこで,当研究では実機の環境を模擬した実験装置を用いて,管内に尿素水を噴霧した瞬間を高速度カメラで可視化し,PIV解析を実施することで尿素水の噴流を可視化しています.

管内における液滴の流れ(PIV解析結果)
表面テクスチャリングを用いた液滴微粒化効果の検証
管内における噴霧液滴の均一化に加えて,尿素水液滴における粒径の微粒化も気化の促進において重要です.そこで,当研究では尿素水液滴1粒に着目し,液滴の壁面衝突の瞬間を高速度カメラで撮影し,壁面衝突後の挙動を可視化しました.さらに,液滴の衝突壁面に鍋底などに用いられているディンプル形状の加工をすることで,壁面衝突後の液滴径の微粒化を促進させることが判明しました.現在は,より実機に近い環境下での微粒化傾向の評価をするため,管内に噴霧した液滴の衝突壁面を可視化しています.

オンボード型CO2回収装置の開発
荷物や人の運搬に必要な輸送物は現在の社会で切っても切り離せないものとなっています。しかし、地球温暖化の問題からCo2排出をゼロにしようという傾向にあります。CO2排出のうち、約4割が運輸業で排出をしてしまっています。そのため、現代社会では自動車のEV化やハイブリッド、水素自動車とCO2排出しない自動車の開発を進めています。しかし、W to W(well to wheel)の観点やバッテリー摩耗から必ずしもEVが良いというにはまだほど遠い現状となっています。水素自動車では水素が大気中に漏れた際の危険性や水素を製造・保管するためのエネルギー使用にて地球温暖化につながると懸念されています。このような事象から、人類が産業革命以来開発を進めてきた内燃機関からCO2を放出させなければこれから先も使用できるのではないかという願いも込めてこの研究が始まりました。
どのように回収するのか?/回収した後はどのようにするのか?
CO2回収技術は現在最も進んでいるのが火力発電等で使用することを目的としたCCS (carbon dioxide capture and storage)です。代表的なのが化学反応によって回収する化学吸収法です。これは火力発電で発生するCO2を大気に放出する前に冷却装置にて発生したガスを冷却し、それをモノエタノールアミン(別称:アミノエタノール、通称:アミン)このアミン吸収剤のタンクに通すことによってCO2と化学反応を起こします。化学反応が起きなかったガスはほかに通し、化学反応が起きた物質は熱を加えることによって可逆反応を起こし、CO2とアミンに再度分かれます。これにより純度の高いCO2を回収することができます。
回収したCO2はH2(水素)と化学反応させることでガソリンになるe-fuelに使用します。このガソリンを使用して自動車を動かすことでカーボンニュートラルを将来的に実現させる研究です。
Fig.4.に現在のモデルを示す。本研究はSCRシステムを基にモデルを構築しました。これを基に実験装置を作製しCO2の濃度や、インジェクタから噴霧されるCO2吸収材の挙動などを計測しています。
現在予想している吸収材とCO2の反応時間はおよそ0.2sのため、液滴とCO2の接触頻度増加が課題となっています。これを解決するため本研究室で使用されている表面テクスチャを使用した実験を実施しております。これにより、インジェクタから噴霧された液滴が衝突する接触面に表面テクスチャを付与することにより、液滴の微粒化を促進し、表面積を増加させることで接触頻度を増加させることを可能にしました。今後、さらに吸収量を増加させるため電化付与(EHD)なども利用する予定です。